リーダーインタビュー:日野優子弁護士(58期、ノボノルディスク ファーマ株式会社法務コンプライアンス本部法務部長)
リーダーインタビュー:日野優子弁護士(58期、ノボノルディスク ファーマ株式会社法務コンプライアンス本部法務部長)
渉外弁護士としてキャリアをスタートされ、その後、海事、ヘルスケアと土俵を変えてきた日野氏。その選択の背景についてお聞きしました。
弁護士の仕事は、縮んでいる。
「ここ40年くらいで、弁護士の仕事って、実はずいぶん縮んでしまったように思います」
日野優子弁護士は、インタビューの中でこう語りました。
企業法務の周辺業務は、コンサルティング会社や会計ファームに次々と奪われ、法律事務所に残ったのはドラフティングと意見書作成。気づけば、弁護士は「作業者」になっていることもある。
「昔の弁護士は、もっとビジネスの中心にいたと思います。『この先生なら経営全般のことを相談できる』という信頼関係が、長い時間をかけて築かれていました。今は、そうした関係性を構築すること自体が難しく、昔ながらのアドバイスのスタイルが、難しくなっているように思います。」
だからこそ、日野氏は言います。
「インハウスは、ある意味『昔の弁護士』に戻れる場所であると思います」
事業の背景を理解し、複数の部署をつなぎながら、法務の枠を超えてトップ・マネジメントと組織全体を前に進める。単に「答えを返す人」ではなく、ビジネスに伴走する存在。それが、インハウスが「昔の弁護士」に戻れる大きな理由だと言います。

インハウスに転じた際に直面した壁
「正直、最初の数年は『ビジネスの現場で何が起きているのだろう』と悩む日々でした」
それでも踏みとどまり、4〜5年かけて全体像が見え始めた頃、自分の中に「判断の地図」ができてきた感覚があった。
「(ラーニングカーブを)越えると、自分の中に『マインドマップ』ができてきます。どの論点をどの順番で考えればいいかが見えて、そこから一気に仕事が面白くなってきます」
「人の役に立ちたい」という思い。
学生時代には社会をより良い方向に動かしたいと考え、ジャーナリストや国際機関にも関心を持っていたといいます。その後、弁護士として、企業の中で、そして製薬業界でよりビジネスや患者さんに近い仕事へと立ち位置は変わりました。一環しているのは、「人の役に立ちたい、自分が関わる共同体を少しでも良くしたい」という軸です。立ち位置やかかわり方は変わっても、誰かの人生や仕事を前に進める側にいたい。その思いが、彼女の選択を静かに導いてきました。
「ライセンス契約が早くまとまらないと製品を患者さんに届けることができない。たとえ小さな治験契約一つであってもこの契約を早くまとめないと患者さんに治療に入ることができない」
製薬業界の現場では、サイズが大きくても小さくても、契約の遅れやビジネスの遅れは患者の人生に直結します。
忙しい日々が続くこともありますが、現場の声を聞くと自然と力が入ると言います。金融やITではなく、製薬業界を選んだ理由も、ここにつながっています。
「最終的に、人の命や生活に直接関わる。それって、すごくやりがいがありますよね」
学ぶ側から教える側へ。キャリア・ステージの変化とともに起きた意識の変化。
製薬業界に入ってからしばらくは「妹分」の立場だったと日野氏は振り返ります。業界のマーケティング、開発、流通、渉外など経験豊富な先輩たちに囲まれ、学ぶ側として過ごした時間。そんな中、ある先輩から自分の役割について改めて考えさせられる言葉をかけられたことが、一つの転機となりました。それ以降、スタンスは少しずつ「育てられる側」から「支える側」「教える側」へと移っていきます。キャリアが進むにつれ、個人として成果を出すだけでなく、周囲が安心して挑戦できる環境を整えることも、自身の役割だと自然に捉えるようになりました。
Novo Nordiskでの新たな挑戦
Novo Nordiskについては100年企業でありながら、ゼロベースで議論できる。「前例は?」ではなく、「なぜそれをやるのか?」から始まる会社。伝統的なビジネスモデルと新しいアイデアが並走し、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まる。リーダーとして働いている今、彼女が目指しているチームの在り方は、伴走型のリーガルです。
まずベースにあるのは社内クライアントにとってアプローチしやすいチームであることこれが全ての基礎になると思います。
その上で、リーガルの業務効率を上げるインフラをアップデートしつづけることです。このようにすることで、会社の一組織として会社全体で「シンプリフィケーション」。が可能になります。この現実的なスタンスが、日野氏の“ビジネスに寄り添う”姿勢を象徴しています。
その次のレイヤーとして、さまざまな社内プロジェクトにおいて社内クライアントと一緒になって働き、リーガルやコンプライアンスの懸念を「理解しやすい形で伝える」。さらに進むと、学会や厚労省など外部ステークホルダーと会話するための知恵を、ビジネス側に「授ける」。ここまで来ると、単なる法的判断ではなく、組織を動かす知恵の領域になります。
失敗の扱い方、自分の立ち位置
ビジネスと一緒に「伴走」する以上、失敗は起こる。プロジェクトがうまくいかないこともある。しかし、それをもって「あの人はダメ」というレッテルを貼るのではなく、「学んだ人」として捉え直し、関係を再構築する。失敗を許容しながら、学習の方向に気持ちを切り替える。
「ここでは失敗「イコール」ダメな人、ではありません。失敗=学んだ人です。失敗をネガティブに捉えるのではなく、学びのきっかけを掴んだと考え、次に活かそうとするカルチャーがあります。」
日野氏は、自身のマネージャーとしての立ち位置を、若手に対して“答えを渡す”タイプではないと言います。基礎的な考え方は共有するが、最終的には「まずクライアントと話してみて」と背中を押す。
「人から聞いただけでは、本当の意味では理解できないことも多い。自分で調べ、自分で考える経験をしてほしい」と語っています。
最後に日野氏はこう語ってくれました。
「どうすれば、自分が所属している共同体を、少しでも良い場所にできるか。それをいつも考えています」
その時々の場所でできることを積み重ねてきた日野優子氏。インハウスというフィールドで「昔の弁護士」の姿を取り戻そうとする彼女の歩みは、これからキャリアを考える若手法務にとって、一つのリアルなロールモデルと言えるかもしれません。




